【感想】2018年3月 新派自主公演「怪人二十面相 黒蜥蜴二の替わり」

2018年3月30日(金) サンシャイン劇場

 

 

 

雪之丞演じる大河原美弥子(=怪人二十面相)が、「大正ロマン」という言葉から想起されるイメージを体現し、期待に違わぬ美しさ。小石川の上流婦人としても、怪人二十面相としても、周囲からの崇拝を集めるに相応しい気高さと妖しさ、明智小五郎だけに見せた弱さ。

そして、伊藤みどりのお鉄婆。出ている場面は短いが、ベテランの貫禄。この婆が、単に強欲なだけでなく、巧みな人心掌握でのしてきた女だということが伝わってくる。初日ということもあってか、他の俳優陣が借り着を着ているような演技の中、さすがの余裕っぷりである。


(以下、上演内容に触れる箇所あり)

 

大河原美弥子は祖父の財宝の隠し場所を知っていると誤解され、財宝を狙う者どもに酷い目にあわされ、殺人の罪をきせられて投獄され、獄中で仮死状態になる薬を飲まされて一旦は葬られ戸籍上は死亡したことになり、埋葬された棺の中で目覚めたことでPTSDになり、掘り起こされたあとも監禁され自白剤を打たれたりするが、関東大震災に乗じて逃げ出し、貧民窟の人々に助けられ、義賊・怪人二十面相になる。今回、財宝を狙われた富豪河野は、かつて大河原家に仕え、美弥子を監禁していた者のひとりだった。

河野家の一人娘不二子は二十面相に誘拐されるが、不二子は河野の実の子ではなく、公爵家の血を引く生まれだった。

美弥子の手下アゲハ(河合宥季)に唆され、財宝と不二子を引き換えにする取引をして父親の愛情を試そうとするが、取引の場に現れた美弥子によって不発に終わる。河野は美弥子が生きていたことを知り、再度、大河原家の財宝を狙って一味と幽霊館の地下迷宮へ。美弥子と明智は手毬唄に秘められた財宝のありかを突き止めるが、河野一派に追いつかれ・・・

 

ゲスト出演の貴城けいが、レビューのスター花菱蘭子/幽霊館の謎を追う黄金マスク(だったか?プログラムに役名の掲載が無いので不確か)の二役を演じるが、黄金マスクのほうが断然よい。動きがきびきびしているので、一人称が「僕」でも、いわゆる「僕女のうっとうしさ」がなくてよい。

花菱蘭子の役柄は当て書きなのだろうが、歌も踊りも文句なしなのに、どうもレビューのスターに見えない。

これは演技力の問題ではなく、脚本、演出、衣裳の問題。特に冒頭のレビューの場面、照明が「丸く切ったカラーセロファンにライトを当てた」状態でいかにも安っぽく、衣裳もシンプルで丈が短く(脚線美は拝めるが)昭和初期のレビューのイメージではない。

幕が上がってすぐの、観客を作品世界にぐっと引き込んでほしいところなのに、粗が目に付く。

悟道軒円玉(喜多村緑郎)の舞台に上がり込んでの掛け合いも、夫婦共演の場面を多く見たい向きには宜しかろうが、作品の本筋から見れば余計な枝葉というところ。

 

緑郎の、明智小五郎/悟道軒円玉の二役については、これも脚本の問題だと思うが、円玉は狂言回しに徹するほうが良いのでは。

今回の円玉はぐっと若く軽く(レビューの女に舞台を乗っ取られるくらいである)、過去の新派公演における悟道軒円玉とは大分イメージが異なる。

自主公演での新しい試みなのだから、若さについてはとやかく言うところではないが、脚本で損をしている感じ。

明智小五郎については、地下迷宮での失神中、夢の中で姉(河合雪之丞?)との邂逅シーンがあるが、これは必要なのか?

(※もし姉が明智小五郎シリーズの重要人物だったら、こちらの不勉強であるが)

失神から覚めた明智小五郎の傍らには大河原美弥子がおり、雪之丞の早替わりを見せる場面なのだろうが、これもとってつけた感じが否めない。

なお、プログラムに「振付 尾上墨雪」の記載があったが、この姉の振付か(夢の中で、姉は言葉を発せず、振りでコミュニケーションをとる)。

 

河野不二子(春本由香)は、乱歩作品お約束の「誘拐される令嬢」にちょうどいい年回りだと思うが、猪首というのか、頭が前に出てしまい姿がよくないので令嬢に見えない。せっかくの若さが台無しである。発声も令嬢らしからぬもの(「勝気な令嬢」という設定だが、単なる「勝気な娘」である)。

物語の最後、二十面相の蛇の刺青を真似て、黒蜥蜴の刺青をするという話になる。「黒蜥蜴誕生秘話」としてはキレイにまとまっているのだが、春本と「黒蜥蜴」の乖離が大きすぎて、客席から失笑が漏れていた。

雪之丞と並ぶ場面が多いだけに、歴然と差が見えてこちらが辛くなる。これからも良い役が回ってくるポジションの人なのだろうから、どうか成長した姿を見せて欲しい。

 

文句ばかり並べてしまったが、最初に記した、雪之丞と伊藤みどりの好演で充分満足。

各場のセットも概ねそれらしく見えていたし、数多い転換もスムーズに行われていた(ただし、その代償か、バミリのテープが多くかつ鮮やかなのが気になった)。